2014年7月26日土曜日

野生動物との出会いは突然に

 ブログに書きたいネタはたくさんあったが、しばらく書く暇がなかった。

 今回は、2週間前に行った宝篋山での観察会について書いてみようと思う。

 約2週間前、同期のH君と一緒に宝篋山の夜間観察会を開催した。開催したといっても、二人である。同期の間で「里山」など、自然関係の勉強会を開いてはどうかという話があって、宝篋山での夜間フィールドワークを提案したのだが、予定があったのがH君だけだった。

 メインとなるべくホタルはもう時期としては遅いので、決行することにした。

 ただし、今回はホタルだけではなく、前回見つけたクヌギの樹液の出ているところでカブトムシやクワガタを探したり、夜動きの鈍い魚や水生昆虫を観察してみたり、タヌキやイノシシの足跡を探してみることにした。

 H君は今後の研究のためにももっとフィールドワークの経験を積みたいとの事だった。自分としても、やはり本を読むだけではフィールドでの”勘”は身につかないとつくづく感じていたので、本当にフィールドワークは重要だと思う。

 さて、今回の夜間観察会の成果は以下のとおりである。
カブトムシの残骸。
残念ながら、生きた甲虫類はあまり見れなかった。このカブトはうかつにも昼間に飛んでカラスか何かに食べられてしまったのだろう。

田んぼにいたコオイムシ。
コオイムシの生体を宝篋山で確認するのは初めてだった。他にも田んぼにはヒメガムシ・ヒメゲンゴロウ・シマゲンゴロウなどがいた。

マムシ
御存知の通り本州では最凶の毒を持つ蛇である。通り道の足元を照らしたらいたのだから恐ろしい。

とぐろをまいて寝ていたようだ。まだ若いようで小さかった。この場所は山と田の境界なのだが、二年前にも同じ場所でマムシに遭遇したことがある。


 夜間だったので、写真はあまり多く撮れなかった。ホタルの方は、もう時期が遅いということもあり、また当日は非常に風が強かったということもあり、前回よりかは見れなかった(それでも10匹以上は見れたが)。

 用水路では、浅いところにドジョウとアメリカザリガニが大量にいた。魚は本当に夜間は動きが鈍く、手でも掴めそうな勢いだった。また、大きいスジエビの目がライトに反射して褐色に光るのが少々不気味だった。

 その後、田んぼで足跡探しをした所、足跡どころか本物のタヌキが正面から歩いてきていて、エンカウントしてしまった。お互いが正面を向き合った形で出会い、タヌキはすぐに逃げ出したがH君もバッチリと見ることが出来た。

 まさか本物を見ることができるとは思ってもいなかったので嬉しかった。

 やはり、フィールドに出るといいことがある。

2014年7月9日水曜日

筑波山は外来種天国? ソウシチョウとアカボシゴマダラ

約一ヶ月前の筑波山登山の出来事だが、記事にしてみようと思う。

筑波山に外来鳥であるソウシチョウが多く生息していることは、既に何回か記事に書いている。ソウシチョウは特定外来生物にも指定されており、日本の侵略的外来種ワースト100にも入っている。元々は中国原産の鳥で、姿形や鳴き声が美しいことからペットとして飼われ、逃げ出した個体や放鳥された個体が筑波山に住み着いたようだ。

2014.5.14 女体山の尾根付近にて

2014.6.4 女体山頂付近にて
なぜ筑波山で定着したかわからないが、少なくとも筑波山のつつじヶ丘ー女体山コースでは登ってその鳴き声を聴かない時はないほど増えている。今回は山頂付近で群れでいるところを目撃したほどで、ウグイスなどの小鳥のニッチを脅かすのではないか、という侵略的外来種指定の理由もうなずける。宝篋山でもその生息は確認することが出来た。

 一方で、その姿形や鳴き声の美しさから登山客には人気である。元々籠の鳥であったためか、警戒心が薄く登山道沿いにも度々姿を表し登山客の足を止めている。その人達がこの鳥を外来種であることを認識しているかどうかは分からないが、個人的に、この鳥が人の手によって放たれたものと知ってしまうとその美しさにも興ざめである。「万葉の時代の控えめな鳥の鳴き声とはかけ離れている」という人もいた。


 さらにもう一種紹介したい外来種がいる。それは、女体山山頂でキアゲハが乱舞している中に突然現れた。

2014.6.14 女体山頂
最初は、アサギマダラか?と思った。筑波山にはアサギマダラの渡りの中継地があり、よく姿を見かけると聞いていたからだ。しかし、レンズをズームに変えてみてどうも違うことに気づく。アサギマダラはオレンジの縁のはずだが、この蝶は赤色で、しかも一部分でしかない。マダラチョウの仲間でこのような色合いの蝶は見たことがなく、家に帰って図鑑で見ても定かではない。

 そこで、やどけんのメンバーや牛久自然観察の森にて質問してみたところ、この蝶はアカボシゴマダラであるということがわかった。

同日。アカボシゴマダラ(夏型)
タテハチョウ科に属し、日本では南西諸島を中心に見られる。近年関東にて大陸型の亜種の分布が確認されている。

同日。アカボシゴマダラ(夏型)
アカボシゴマダラは、本来日本においては南西諸島にしか生息しない種である。しかし、どうやら愛蝶家によるゲリラ放蝶によって、大陸型の亜種が関東を中心に分布を拡大しているようだ。愛蝶家にとっては、この外来種が在来種に与える影響よりも、アカボシゴマダラの美しさの方が大事なようである。

 確かに、この蝶は美しい。自分でも見ていてほれぼれとする美しさだ。しかし、そのような理由で本来生息しない生物を放したことによる影響について、その人はこれまでの歴史を振り返ったことがないのだろうか。人為的に持ち込まれた種によってどれほど生物多様性が失われてきたことだろう。このアカボシゴマダラも、植樹であるエノキを巡って、同じくエノキを植樹とするオオムラサキやゴマダラチョウと競合するものと考えられる。1995年に初めて埼玉県で確認されて以来、現在に至るまで関東全域に生息域を広めているところを見ると、その繁殖力の強さも伺える。


 ソウシチョウとアカボシゴマダラについて共通して言えることは、どちらも「美しい」から放されたということだ。そして、美しいゆえにこれが外来種だから駆除すべき、あるいは広めるべきではないと言っても、世間ではあまり受け入れられないという問題もある。これらの生き物は見る人を楽しませているのだからいいではないか、ということである。似たような問題は、京都においてマスコットキャラクターと化したヌートリアや、北海道にて釣り客のためにニジマスを放流する団体など、全国に見ることができる。

 人間が見るからには、その利用や経済的な側面、見た目から生き物がより好みされるのは仕方ないことだろう。誰だってゴキブリを保護しようだなど思わない。しかし、それを「自然」の領域で使ってしまってはそれを「自然」といえるのだろうか。

 筑波山は全域が水郷筑波国定公園に指定されている。そして、これらの生き物が見られたのは原生的な自然を保護すべく設定されたはずの「特別保護地区」である。特別保護地区では一切の動植物の移動・採取が禁止されている。ある意味、この法律がソウシチョウとアカボシゴマダラの駆除を阻んでいるというのも皮肉なものである。

 他方で、「外来種」と一方的に決めつけて攻撃する風潮もどうだろうかという意見もある。イネや殆どの野菜、家畜は元を正せば外来種であり、人為的でなくとも広がる外来種もいる。そのあたりと上手く付き合って自然と人間の領域を考えることが今後求められていくのだろう。


 なお、参考資料として610氏から以下の資料を紹介していただいた。
茨城県坂東市におけるアカボシゴマダラ(チョウ目:タテハチョウ科) の羽化の記録
茨城県におけるアカボシゴマダラ (チョウ目: タテハチョウ科) の記録

追記:アカホシゴマダラとなっていましたが正しくはアカボシゴマダラでした。アドバイスを頂き、茨城県自然博物館に目撃を報告しました。